モゴモゴN社長は、
昔から、着るものは保守派だった。

黒に紺とグレー、
以外の服は買わなかった。

おまけに気にいると同じものを何枚も買った。
『お父さんのタンスの中には、

どうして同じ服があるの？』
帰省した娘がよく言っていた。

背広を買いに行っても、
『そういうの、持っているよ』

というのばかりを選ぶ。
ネクタイもしかり。

『たまには、
赤が入っているネクタイにしたら？』

と私が買ってきても、
『派手だ…』

三女が、
父の日に買って来たスパイダーマンのネクタイは、

当たり前にお蔵入り。

そんなモゴモゴN社長が、
初めて締めた真っ赤なネクタイは、

還暦祝いに私が買ったブランドネクタイだった。
色違いを経営者仲間のOさんが締めていた。

これなら、
着けてくれるかも知れない。

初めてその赤いネクタイを見たとき、
モゴモゴN社長は、ぎょ！としたけれど、

娘たちや私の視線に耐えきれず締めた。
似合っていた。

『気合を入れる時は、このネクタイよ』

それから、
何かあると真っ赤なネクタイは登場した。

先日、
合同企業説明会やホームページに使う写真を選んでいる時、

『モゴモゴN社長のこのネクタイ、
似合ってますよね。』

ビベロYちゃんが言った。
『そうだね。』

そして、
『この写真が一番いい！』

その真っ赤なネクタイを締め、
嬉しそうに、

拍手をしながら笑っているモゴモゴN社長の写真は、
A3に拡大コピーをされ、

合同企業説明会の当社ブースに、
貼られることになった。

『えっ！？これを貼るのか？』

目立つのが苦手な、
保守的服装が大好きなモゴモゴN社長は、

社員たちの手によって、
一番目立つ姿で登場することになった。

真っ赤なネクタイは、
幸運を呼ぶネクタイ、

きっと素晴らしい学生さんを、
呼んできてくれるだろう。

今から、ワクワクしている。