いつ頃からか、
土曜の夜の夫婦二人の楽しみは、

BSで【映画寅さん】を見ることとなった。
何せ、面白い。

夫婦で、
テレビの前で夕食を食べながら、

がはははは！と笑う。
基本は優しい映画だから、

笑の中にも、
心がほっこりするので、

週末が、
幸せ気分で終わるのが良いのだが。

昨夜は、
スペシャルの二本立て、

夕食の支度をしていた私は、
一本目の真ん中から夫と一緒に見た。

BSでも、宣伝が入るが、
スペシャルのためか見慣れぬコマーシャルだった。

58歳の女性がギターを習っているCMだ。
『58歳かあ、私もこんな感じなのかしら』

CMに出ている女性と自分を見比べ、
もちろん、

自分の方が若く見えるという確信の上に聞いている。

夫は、何気に、
『お前の方が、ひどいぞ』と言った。

ひどい？！ひどいって何？！
『あ、いや、あ、いや』

何がいや…だ。
二本目の寅さんのマドンナ役は大原麗子、

その美しい顔と、
色っぽい声を聞き、ゲラゲラ笑いつつも、

頭の中には、
『お前の方がひどいぞ』の声が反復する。

確かに、
三月から一病息災になり、

美容院には行っていないから、
髪の毛はグレーのバサバサだけれど、

顔の張りは、
CMの方より絶対良いと思っていたのに…

シワは、
私の方が少ないと思っていたのに…

ううううううううううう

昨夜の寅さんは、
少し大人になった寅さんの、

少し可哀想な話だった。
見終わって、

『じゃあ、寝るね。』
と、夫より先に洗面台にむかい、

鏡をじっと見た。
(どこが私の方がひどいのかしら?)

張りもあるように見えるし、
シワは見えない。

おかしいわね、どれどれと、
鏡に顔を近づけたら、

余計にぼやけて見えなくなった。

あ・そういうこと…
世の中には、

無理して、
真実を暴く必要のないことも有ると悟った。

せめて、
自分は大原麗子と思って寝ることにした。