蟻が出た。
『長雨のせいですよ』黒帯K君が言った。

昨日の朝、
『きゃ！蟻』の声と共に、

想定外の蟻退治が始まった。
場所は会社の台所。

会社に台所、
という表現も変だけれど、

うちの会社の場合は、
まさに、台所。

昼食に、
しゃかしゃかとラーメンを作ったり、

ラーメンを作ったり…
まあ、ほぼラーメンだが。

たまには、
社内飲み会で焼肉やらすき焼きやらもここで出来上がる。

ので、
蟻さんは台所の三角コーナーを中心にわんさか現れたのだ。

『どこから入ったのかしら。
でも、まずは、蟻退治ね！』と、生協があくと共に害虫コーナーへ。

ふむふむ、
テレビで宣伝しているものやら、

思いのほか商品はいっぱいあったが、
出来るだけ、体に悪くなさそうな重曹を使用したものを購入した。

薬と一緒に入っている小皿に数滴垂らし、置く。
だけだ。

甘い匂いのする薬をたっぷり四角いお皿に入れ、
冷蔵庫の下へ。

台所には、ビニールテープを張り、
その上にたらり…

どれどれ………しばし…観察…。

『おかしいね。蟻さんは食べないよ』
ガバッと群がることを想像していた私は、

ちょこっと失望し、
ブツブツいいながら仕事に戻ったが、

気になって仕方が無い。
再び、どれどれ………

あ！来ている！
蟻さんは、お行儀良く、

四角いお皿には、 四角くく整列し、
丸く盛り上がった薬液には丸く整列し、

一心不乱に食べていた。
でも、けして、仲間を押しのけようとはせず、

終わるのを待って、
自分も食べる。

『なんか、蟻さん、増えたね。
それに、凄く動いているよ』

蟻さんたちは、
食べ終わると一列になり、

凄い勢いで行進をしていた。
『餌が見つかって嬉しいんじゃないですか。

そして、仲間に知らせに戻っているんですよ。』
スノーマンK君が言った。

蟻さんは、
餌を見つけたら仲間に知らせ、

みんなで食べて、
みんなで喜ぶ性質らしい。

何だか、申し訳ない。

『蟻が死んだら、基礎の根本的蟻退治と通り道をコーキングしましょう』
黒帯K君が言った。

『うん、』と答えたが、
勤勉で仲間思いの蟻さん達をだまし討ちにしたようで、

どうも後味が悪い。
いや、明らかに、

その蟻さんたちの習性を利用した駆除方法だが。

帰り際、
台所を除くとほとんど蟻はいなくなっていた。